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夏祭り

「え! 先輩! お祭りやってますよ!」

「知ってますよ……昨日課長も言ってましたから」

「そうだっけ? ねえねえ先輩なんか食べません? お腹も空いてるし!」

「はあ……まあ、少しだけですよ」

「やったー!」

 ……と、1分でも早く帰って寝たい私に荒山さんは寄り道を提案してくる。私もそれを飲んでしまうのだから弱いものだ。

「何がいいかな~……あ、とりあえずラムネ飲みます?」

「ビールじゃないんですか?」

「バカだなぁ先輩は……ビールなんかいつでも飲めるんですから、こういうときはお祭りらしいものを飲まなきゃ!」

「それもそうですけど……」

 かき氷、スイカ、焼きとうもろこしやイカ焼き。少し目を動かせば違う種類の屋台が見えた。

「僕わたあめが食べたい! 先輩は?」

「私はいらないですよ……」

「違いますよぉ! 先輩は何が食べたいんですか? さすがにお腹減ってますもんね?」

「ああ……じゃあ、焼きそばとか……」

「僕も焼きそば食べる! 大盛2個で!」

「ちゃんと食べきれるんですか?」

「いけますいけます、今日ご飯少なかったし」

 そういえばそうだった。いつもご飯にドーナツにもりもりと食べているのに、今日はやけに少なかった。夏バテかな、なんて心配していたが、それは杞憂だったらしい。

「先輩とお祭り嬉しいな~、なんだかんだ来たことなかったですもんねぇ」

「そうですね……私が残って仕事してるから……」

「先輩のせいですよぉ、全く」

「荒山さんが手伝ってくれたら今日みたいに早く帰れるんですけど……」

「まあ~それはそれ、これはこれ?」

 ため息を吐きつつ、確かに夏祭りなんて一緒に来ること無かったなと考える。考えてから、首を傾げた。一体何年一緒にいるんだろう。

「ほら先輩! あ~ん♡」

「ちょ……どこだと思ってるんですか。外ですよ」

「え? 家ならあ~んでも良かったんですか?」

「揚げ足取りだな……そういうことじゃないですよ」

「んふふ、先輩ってば素直じゃないんだから」

 もう何年も一緒にいて、こうしてくだらないやり取りをしている。嫌なら断ればいいのに、と本人から言われたこともあった。確かにその通りだ。でもどうしてか断れない。

「ん~! おいひい!」

 ずるずると焼きそばをすする荒山さんを見ながら、私も焼きそばをすすって、ラムネを飲む。こういう嬉しそうな顔を見るのが好きだからかもしれないな、とか、思ったりして。

「むぐ、……先輩、人混みでは鞄のチャックとかちゃんと閉めないとだめですからね?」

「なんですか急に。ちゃんと閉め……あれ? 開いてましたか?」

「開いてましたぁ~だから焼きそばは先輩の奢りってことで」

 そう言って荒山さんがポケットから私の財布を取り出して渡してくる。中を見ればしっかりお札が減っていた。

 前言撤回。やっぱり今度は断って家で寝よう。

「あなた窃盗罪って言われても言い訳できませんからね」

「ええ~? でもでも先輩だって嬉しそうな顔してたじゃないですかぁ!」

「それはそれ、これはこれ!」


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