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俺だけ

 スマホのホーム画面を変更。眺めていると、後ろから声をかけられる。

「えっ納谷なや!? お前、さすがにそれは付き合ってるって言われてもしょうがねえって!」

「……覗き見するな」

「堀じゃん! 今の堀じゃん! しかも寝顔じゃん!?」

「うるさい」

 画面をオフにしてポケットにしまう。仁科は面白いおもちゃを見つけたという顔でまくし立てた。

「付き合ってないとか言いつつそれはマジないって、それはさすがに」

「何回も同じこと言うな」

「堀に許可とった? お前の片思いとかじゃないよな?」

「許可はとってない」

「やっば! おい堀! こっちこっち!」

 遠くにいた和葉が俺の方を見て寄ってくる。

「なあ、納谷なやが無許可で堀の寝顔を待ち受けにしてるけどどう思うよ?」

「ええ……別に……」

 こんなふうに茶化されると思ってなかった。

「別にってなんだよ! てか付き合ってないは嘘だろ最早」

「付き合ってないし……覗き見しちゃだめだよ」

「聞こえてたのかよ!」

 仁科と和葉が勝手に会話を進める。俺はポケットの中のスマホを握って、早く二人になりたいとばかり考えていた。

 立ち上がって仁科を押しのけ、和葉を引っ張って歩きはじめる。

「あ、おい納谷!」

 仁科の声を無視して歩く。

駿すぐるくん?」

「…………」

駿すぐるくん、」

 は、として歩調を緩める。和葉は少し息を切らしていた。

「ごめん……悪かった」

「ん、ううん……駿くん」

 やっぱり嫌だったか。付き合ってもいないのに寝顔なんて。今更だけど、変だったか。何か言われる前にそう聞きたいのに、喉の奥に絡まって出てこない。

「俺へんな顔じゃない?」

「は……?」

「どんな顔かと思って……待ち受け」

「あ……ああ、」

 スマホを取り出して見せる。俺の服を抱きしめて眠る、和葉の写真。

「……ちょっと恥ずかしい」

 えへへ、と笑う和葉は嫌そうな顔に見えない。気にしすぎたか。

「嫌ならやめる」

「別にいいけど、仁科くんうるさそう」

「ん……やっぱり変える」

 今まで通り適当な写真に戻す。和葉が俺の服を引っ張った。

「早く帰ってごろごろしよ」

「……うん」

 仁科も悪気はなかったんだろうと思う。別にそこまで嫌ではない。ただ、俺が気に入ったものを周りにばらされたくなかっただけ。

 そこまで思ってから、俺はこいつの寝てる顔を、他のやつに見られたくなかったんだと理解した。焦って、いらだって、逃げるみたいに連れ出して、恥ずかしい。

「和葉」

「うん……なに?」

「……、……上手く言えないけど、お前のことが好きだ」

「……えへへ、俺もすき」

 違う、好きだとか言いたかったんじゃない。でも上手く言えなくて、また喉の奥に絡まって出てこなくなった。付き合うとか付き合わないとか、恋人とか友達とか、そういうの、もうどうでもいいのに。

 どうでもいいのに、な。


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