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ファーストキスに味なんか無かった

 小さい頃に思い描いた「恋人同士」というのは男女がお互いに大好きになって手を繋ぐことだった。

 実際、今俺が経験している恋のようなものは、ありえない状況で初めてのセックスをした男への、庇護欲と性欲や憐憫が混ざった少し汚い感情。

「浩輔~」

 呼ばれて振り返ると、真也が両手を広げている。寄って、抱きしめて頭を撫でた。

「ふふ、何の用かとか聞かないんだ?」

「何か用があったのか?」

「べつに~。えへへ」

 単にくっつきたかったんだろう。俺も笑って頬にキスをした。

 真也は高校のときから俺を好きで、それって多分、「ちゃんと」恋なんだと思う。俺のことだけが特別に見えて、俺のことだけをずっと好きでいてくれた。俺がそのことを一切知らずに大人になっても、それでも。

 こいつは愛されてみたいと言った。でも俺に恋はできたんだな。

「真也……」

「ん~?」

 ゆっくりと顔を近づけて唇を合わせていると真也の吐く息が熱くなっていく。俺みたいな、特に目立った良いところもないやつにキスされて、こんなに嬉しそうにとろけた顔見せて。

「……ぷ、ぁ」

 血色の良い頬。細められた目が俺を見つめている。

「かわいい、真也」

「ん……、ふふ……」

 くすぐったそうに笑うのも、もっと言ってほしそうにまた俺を見つめるのも、全部、全部、手離したくないし誰にも譲りたくない。たとえこれがただの欲や執着でもいい。こいつと付き合ってるのは俺なんだ。

「真也、今度寿司行くか」

「寿司行きたい!」

 御託はいいか。ただ、今真也が笑って過ごしてくれるなら、それで。

「俺はサーモン食べたい。お前は?」

「えー、俺は……」


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