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ル・プワソン-3

 家電量販店に着くと、休日ということもあり人が多かった。平日の夜にすればよかっただろうかと早速後悔が始まる。ただの下見に過ぎないのだから、手短に済ませようと店の中へ入った。すると入り口に立っていた人……服を着て笑顔を振りまく女性型のアンドロイドが「いらっしゃいませ」と声をかけてくる。胸元には「安藤」と書かれた名札が提げられていた。

「何かお探しですか?」

「パートナー系AIを買おうと思っていて」

「ご案内は必要ですか?」

「ああ……じゃあ一応」

 正確な音声認識で僕の要望を理解すると、安藤さんは僕の前を歩きながら喋った。

「現在この店舗には10種類以上のアンドロイドを展開しております。店長のおすすめアンドロイドの商品名は『ル・プワソン』です」

 聞きながら店内を見渡す。たしかに、人間の見た目をしていないパートナー系AIもいた。犬や猫、うさぎや、小さいものならハムスターまで。体毛や触ったときの感触、柔らかさまでもが再現されており、もはや目の悪い人なら遠くからではアンドロイドと本物の動物の見分けなんかつかないだろう。

「家事に特化した型、会話に特化した型、バランス型の3種類となっております。こちらがル・プワソンです」

 案内されたコーナーには展示品が3体、いや正確には3人立っていた。僕が近寄ると3人ともパッと笑顔を形作り、「こんにちは」と話しかけてくる。プログラミングされているからなのか、それともこの場の「空気」を読んで自分の喋るタイミングをしっかりと理解しているのか、きちんと型番の数字の順番に自己紹介を始めた。

「初めまして! ワタシは家事特化ル・プワソンの舵です。家事が得意なので、お留守の間にすべての舵をこなしますよ!」

「初めまして! アタシは会話特化ル・プワソンの貝田です。おしゃべりしたり、触れ合ったりするのが大好きです!」

「初めまして! ボクはバランス型ル・プワソンの海原です。家事もおしゃべりもどっちもがんばりますね!」

「初めまして。僕は楽しくおしゃべりがしたいわけでも、家事をすべてやってもらいたいわけでもない。僕と共に円滑な生活を送ってくれればそれでいいんだ」

「そうなんですね。それなら海原さんがおすすめですよ。海原さんの特徴は……」

 そうやって紹介された海原さんというアンドロイドが笑って手を振る。ここにいるのはどれも女性型だが、パーツをつけかえて設定を変えることで、男性にも無性別にもできるらしい。専用ソフトかスマホのアプリケーションで細かい設定はいじれると聞いてはいたが、初期設定がこんな媚びた態度だと困る。

 パートナー系AIがアップデートされるたびに連日様々なところで話題にあがっているが、アップデートされるたびに接待めいた度になっている気がするのは僕だけだろうか。そりゃ、円滑に結婚生活を送るには喧嘩や言い争いなんかはしないほうがいいし、野蛮な言葉を学習し他者を攻撃することをAIが覚えてしまうのは危険だろう。でもそんなのは人間だって同じわけで、どれだけ無垢な赤ん坊でも生きていくうちに野蛮な言葉や攻撃的な言葉を覚えて日常生活でそれを使うようになる。俗なものから離れていられるのは相当な金持ちだけではないだろうか。

 だからできるだけ接待しない、なんなら僕にそっけないくらいでいい。僕の意見を、間違っていると思ったら間違っているときちんと指摘できるようなアンドロイドが欲しい。


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